バイクの慣らし運転の目的と正しい走行手順
新車を購入したときや、エンジンをオーバーホール(分解整備)した後に必要となるのが「慣らし運転」です。
昨今のバイクは製造精度が向上しているため「慣らしは不要」という意見も聞かれますが、メーカーの取扱説明書にも記載されているように、慣らし運転は愛車のパフォーマンスと寿命を延ばすために非常に重要な工程です。
ここでは、慣らし運転の目的と、正しい手順、そして注意すべき点について解説します。
慣らし運転の重要な目的
慣らし運転は、エンジン内部の部品や、車体全体の部品を「馴染ませる」ことを目的としています。
エンジン内部の「当たり」をつける
慣らし運転の最も大きな目的は、新品のエンジン内部にある部品同士に「当たり」をつけることです。
エンジンを構成するピストン、シリンダー、ギアなどの金属部品は、製造時に目に見えない微細な凹凸(バリ)を持っています。
いきなり高負荷をかけて高回転で運転すると、強く擦れ合う部分が異常に摩耗したり、油膜が切れて傷ついたりするリスクがあります。
慣らし運転では、低い回転数で運転することで、これらの部品を徐々に擦り合わせ、接触面を均一に滑らかにしていくのが目的です。
この作業により、エンジンの密閉性が高まり、本来持っている性能を最大限に引き出す準備が整います。
初期の「馴染み」を車体全体で確認する
慣らし運転が必要なのはエンジンだけではありません。
タイヤ、ブレーキ、サスペンション、駆動系のギアなど、走行に関わるすべての部品が新品の状態です。
ブレーキパッドとディスクローターの当たりをつけたり、ギアを満遍なく使ってスムーズな動きを促したりすることで、バイク全体が安定して設計通りの性能を発揮できるようになります。
また、初期の振動で発生しやすいネジの緩み(初期緩み)を確認し、初回点検で適切に締め直すという安全上の重要な目的もあります。
正しい慣らし運転のやり方と走行距離
慣らし運転は、段階的にエンジンへの負荷を上げていくことがポイントです。
段階的な回転数の目安
具体的な回転数は車種によって異なりますが、一般的には最高回転数(レッドゾーン)の半分以下を上限として、段階的に使用回転数を引き上げていきます。
走行距離 0km~500km
最高回転数の1/3程度(例:6,000rpmが上限なら2,000rpm以下)を上限とし、優しく走行します。
走行距離 500km~1,000km
徐々に回転数を上げ、最高回転数の半分程度(例:6,000rpmが上限なら3,000rpm以下)まで回します。
取扱説明書に正確な記載がある場合は、必ずメーカー指定の回転数を守ってください。
走行時間とギアの使い方
慣らし運転期間中は、「急」のつく操作、すなわち急発進、急加速、急減速、急ブレーキは厳禁です。エンジンに大きな負荷をかける空ぶかしも避けてください。
また、慣らし運転の効果を高めるためには、高速道路などでトップギアを使い続けるのではなく、1速からトップギアまで、すべてのギアを満遍なく使うことが重要です。
さらに、エンジンを「温める・冷やす」を繰り返すことで、金属の熱膨張による馴染みを促進できるため、数週間から1ヶ月程度かけて、短距離すぎず、長距離すぎない走行を繰り返すのが理想的です。
慣らし運転を怠った場合のリスク
慣らし運転を怠り、いきなり全開走行や高回転域での運転を続けると、エンジン内部に設計外の大きな負荷がかかり、部品の異常摩耗や破損につながるリスクがあります。
最悪の場合、エンジンの出力低下や寿命を縮めるだけでなく、保証対象外の故障を引き起こしてしまう可能性も。
慣らし運転の最終段階である初回点検(多くは1,000km走行時)でオイル交換を行うことにより、初期に発生した金属の微細な削りカスを取り除くことができます。
この初回点検とオイル交換までを終えて初めて、愛車は最高のコンディションで走り出す準備が整うと言えるでしょう。
